Co-existence(共存)に関する具体的なルール作りが先行しているのはEUです。モラトリアムの解禁や、表示・トレーサビリティ規則の制定などを背景に、EU委員会はEU全体としての考え方や方向性を示すものとして「共存ガイドライン」(2003年7月)を策定しました。ただ、このガイドラインは共通規則的な性格のものではなく、あくまで全体的な概念や方向性を一般原則として示したもので(参考1)、国によって栽培状況等が異なることなどに配慮し、法制定を含む具体的なルール作りについては各国に委ねられています。現在、このガイドラインを踏まえ、各国で共存法制定に向けた動きが進んでいます。
EUのガイドラインでは、組み換え作物の栽培を認めない、いわゆるフリーゾーンは、共存政策が成立しにくい環境条件がある場合に限るなど、農家の選択の自由と栽培の権利を最大限に尊重した内容になっています。こうしたCo-existenceの概念を実際の農業現場に適用する場合、重要なのがThreshold(閾値/意図せざる混入の限界値)の設定です。隔離措置等を行っても偶発的な混入を100%防ぐのは困難であるという実態を踏まえたもので、共存に関するルール作りの中では、科学に基づく管理手法の指標であると同時に、農業者への過度な負担を避けるという観点からも、Threshold(閾値)は共存ルールの両輪として位置づけられています。 EUでは2004年4月に「GM Food & Feed Regulation 1829/2003」という新しい食品・飼料規則が施行されており、食品表示については0.9%という閾値が設定されましたが、これが具体的なルール作りの前提となっています。現在EUで検討されている種子の混入許容値もThreshold(閾値)の一つで、「共存」政策の一環とされています。 EUガイドラインでは、これらのThreshold(閾値)の設定以外にも、Co-existenceに関して「Factors to consider」(考慮すべき要素)として、栽培条件による達成レベルの違い(同じ農家が遺伝子組み換えと非組み換え作物を連続した年に栽培する場合や、異なる農家が同じ年に栽培する場合など)、偶発的混入(花粉の飛散、貯蔵や流通過程の管理、収穫後に土に残っていた種の発芽、種子の不純物など)、作物ごとの生育特性、生産タイプ(作物と種子用作物)の違い、栽培地の周辺環境の違い、雄性不稔など生物学的方法による交雑防止策を挙げています。
ただ、これらの要素を踏まえ具体的にどのように実現可能なルールを作っていくかについては、各国によって考え方に違いが見られます。現段階(2005年1月)ですでに法律が策定されているのはデンマーク(2004年6月成立)、ドイツ(2004年11月成立)、イタリア(2004年11月成立)、オランダ(2004年11月成立)です。各国の法律に共通しているのは、ライセンスなど栽培者に資格要件を設け、隔離措置を設けるなど一定のルールに基づく栽培を遵守するよう求めていること、また混入・交雑等による損害が発生した場合の損失補填について定めていることです。しかし、世界初の共存法として注目されたデンマークの共存法は、政府と生産者が出資する基金によって損失を補填するのが特徴であるのに対し、ドイツの共存法は特に基金は設けず、遺伝子組み換え作物の交雑・混入による経済的損失が農家に発生した場合、遺伝子組み換え作物の栽培農家に連帯責任として経済的損失補填を求める内容となっています。(参考2)。しかも、オランダやイタリアの場合、生産者による賠償は栽培ルールを守らなかったときのみ発生するのに対し、ドイツの場合は無過失責任ということが前提になっているようです。なおドイツのように基金と生産者による賠償という両方を定めている場合については、混入の原因が特定できない場合や、原因が特定できても栽培者がルールを遵守していた場合などに基金を使うなど、考え方としては区別されているようです。
いずれにしてもこれらの国内法についてはEU委員会による正式な承認が得られているわけではありません。加盟各国の共存法は、施行規則を含めEU委員会に報告され、委員会から特にコメントがなければ正式に実施されますが、特にドイツの共存法については、法案の段階でEU委員会の法律家から、EUの共存ガイドラインの精神に反し、農家の栽培の自由を奪うものとしてチェックが入ったという報道もありました。法律が施行される直前の2004年11月にはドイツ国内で、遺伝子組み換えトウモロコシの交雑に関する最新の研究結果が公表されました。この中ではドイツの7つの州の約30箇所で、遺伝子組み換えの害虫抵抗性トウモロコシを栽培した場合の周辺の非組み換えトウモロコシへの影響を調査したところ、20メートルの隔離距離を設ければEUの定める混入限界値である0.9%を超えて混入することはなかったとした上で、「適切な措置によって共存は可能である」と結論付けています。しかし、ドイツの共存法のように厳しい措置が課せられれば、農家が栽培を躊躇する可能性も指摘されています。実際、ドイツの農業者連合(The German Farmers' Union/ DBV)は農家に負担を強いるものとして反対の意を表明しています。このためこの法律が実際に適用されるかは不透明な状況です。
4カ国の例に見られるように、同じ共存法でありながら国レベルでの違いが今後も発生する可能性を踏まえ、加盟国からはEU統一的な共存法案モデルを求める声も高まっており、Co-existenceのタスクフォースを作って検討するという動きもあります。
現在、スペインやフランス、英国等でも法制化に向けた具体的な検討が進められているとされます。日本では今のところ、「共存」という概念は未発達な状況ですが、EU同様に食品については5%という閾値がすでに設定されており、そうした意味で「共存」政策を検討する上での素地はあるとも言えます。ただ閾値を越えた場合どう対処するかは依然議論のあるところです。Co-existenceに関する米国の研究報告(前編参照)では、わずらわしい管理や責任問題から、遺伝子組み換え作物の栽培を思いとどまっている農家も多く存在すると報告されています。EUガイドラインでもうたわれている農家の選択の自由や栽培の権利と、実効性を具体的なルール作りの中でどう担保できるかが今後の課題となりそうです。