遺伝子組み換え作物関連レポート

Co-existence (共存) をめぐる最新動向
前編 〜 その考え方と欧米での調査研究報告

Co-existence。日本語では一般に「共存」と訳されますが、この言葉が今、遺伝子組み換え作物をめぐる問題で注目を集めています。日本国内では交雑等の懸念を理由に自治体による栽培規制も見られますが、海外では、異なる栽培手法の共存という道が模索されており、その共通概念として「Co-existence」という言葉が定着するようになりました。農業経済学的観点からの調査研究も進められており、これらも踏まえ、具体的なルール作りも研究されています。隔離距離等の交雑防止措置や、いき値(意図せざる混入の限界値)の設定など、100%純粋はあり得ないという立場から、それぞれの技術を栽培手法の一つとして尊重しています。現在、EUではEU委員会の策定したCo-existence(共存)ガイドラインを踏まえ、加盟各国レベルでの法整備等も進められていますが、この中では、農家の選ぶ自由、栽培の権利という視点が大きな課題となっています。


Co-existence(共存)とは何か

遺伝子組み換え作物などの農作物の分野でCo-existence「共存」という言葉が使われる場合は、異なる市場向けの作物が同じ圏内で混じり合うことなく、互いの価値を損なうことなく存在できるということを意味します。基本的には、遺伝子組み換え作物と、非組み換えの従来作物、あるいは有機栽培作物などとの関係で論じられるものです。混入による経済的損失を最小限に抑えるという単純なとらえ方ではなく、農業技術、栽培手法の一つとして、それぞれの存在を尊重するという考え方が前提にあります。
Co-existenceに関するガイドラインを策定したEU委員会も「共存は“ある作物の原材料が別の作物に偶発的に混入することによる経済的影響と、農業経営者による遺伝子組み換え作物、従来作物、有機作物の自由な選択(栽培)の原則”が絡んでいる問題」と定義しています。


Co-existence(共存)に関する調査研究

Co-existenceに関する調査研究としては、民間の調査会社であるPG経済研究所(英国)によって、Graham Brookes(グラハム・ブルックス)とPeter Barfoot(ピーター・バーフット)という2人の農業経済学者による研究論文がいくつか発表されています。現在、北米(2004年6月)、EU(2004年5月)、英国(2003年11月)、スペイン(2003年10月)などに関する調査研究報告書が存在します。
いずれも各国での農業の現状等に関する調査研究によって「共存」はすでに存在し、また今後も成立し得ると結論付けています。以下がそのポイントです。

・ 有機栽培作物と遺伝子組み換え作物は同時的に発展している
    :トウモロコシの有機栽培が盛んなアイオワ州やミネソタ州では
      組み換えトウモロコシの栽培面積も全米平均以上。

・ 有機栽培者は共存問題にほとんど問題にしていない
    :北米の調査で、有機農家の92%は、組み換え作物が近隣で栽培されたことによる
      経済的損失はないと回答、残りも大半は検査費用程度。

・ 混入の実態はむしろ収穫後に起きている
    :混入の問題は花粉の飛散等による栽培上の交雑よりむしろ、
      収穫後の管理(貯蔵や流通などでの分別の不備など)起因することが多い。

・ 栽培管理手法としての「共存」はすでに存在している
    :遺伝子組み換え作物の管理プラン、その他付加価値のついた作物での隔離措置等によって、
      栽培手法としての「共存」のノウハウはすでに存在。


北米とEUの報告書について、それぞれ全体と要約と結論の部分を翻訳したものを紹介します。

北米 (PDF 11MB)
Co-existence in North American agriculture: can GM crops be grown with conventional and organic crops?

EU (PDF 0.5MB)
Co-exisrence of GM and non GM arable crops: the non GM and organic context in the EU



【参考】
米、EU、英国、スペインの報告書の原文(英文)

(PG 経済研究所のHP)
http://www.pgeconomics.co.uk/

(北米)
http://www.pgeconomics.co.uk/pdf/CoexistencereportNAmericafinalJune2004.pdf

(EU)
http://www.pgeconomics.co.uk/pdf/Co-existencestudyEU_PG_Economicsmay2004.pdf

(英国)
http://www.pgeconomics.co.uk/pdf/Co-existence_UK.pdf

(スペイン)
http://www.pgeconomics.co.uk/pdf/Coexistence_spain.pdf


“区別する”という考え方

          〜従来作物に見るCo-existence(共存)のノウハウ
この中で特に興味深いのは、何らかの付加価値や特徴を持った作物を一般的な作物と“区別して栽培する”ということが農業の現場ではすでに行われている事実に着目し、こうした経験やノウハウを「共存」政策の生きた教材として位置づけていることです。例えば特定の栄養価の高いものや、用途が異なるものなどがありますが、米国やカナダでは、こうした付加価値のついた作物が、それぞれ5%前後の割合で存在しています。以下がその具体例です。

【トウモロコシ】
高アミロース、高油脂、もち質でスターチなどに用いられるワキシコーン、硬粒種や栄養価の高い品種などが存在。これらの特別な品種の割合は米国のトウモロコシ全体の4.9%(約150万ヘクタール)を占めています。

【大豆】
米国には主に日本の顧客向けである豆腐用の特別な品種が存在します。

【ナタネ】
高エルシン酸の品種や、「Nexera Canola」という商品名のナタネが存在します。エルシン酸は含有量が高いとヒトの健康に害を及ぼすことがあるため、高エルシン酸品種は食用ではなく工業用に用いられます。一方、「Nexera Canola」はトランス脂肪酸の発生を抑え、より健康的で安定した高オレイン酸ナタネであるため、食用として付加価値がついたものです。高エルシン酸と「Nexera Canola」の栽培面積は、それぞれ12万ヘクタールと6万ヘクタール、カナダのナタネ栽培面積全体の2.6%と1.3%を占めます。
こうした作物については、それぞれの価値や特徴をきちんと保つために、一般の作物とは区別して栽培されており、栽培者の間ではそのための措置がとられています。例えば2000年から栽培が始まったNexera Canolaの場合、栽培者は非Nexera Canolaの混入を最小限にするための措置として、以下のようなことを実行しています。
    ・ 栽培時に非Nexera Canolaからの隔離距離を最低25メートル保つ。
    ・ 播種や収穫時に使用する備品は使用前と後に必ずクリーニングする
    ・ すべての輸送船をクリーニングし、保管時にも注意を払う

英国でも高エルシン酸の「HEAR」という工業用のナタネ品種があり、ポリエチレンやポリプロピレンフィルムやヘアーコンディショナーのスリップ剤などの工業用に利用されていますが、やはり栽培者は、一般の食用作物からは50メートル程度の隔離距離を保って栽培しています。

このほか、種子生産用に栽培される場合なども特別扱いで、一般の作物とは区別されています。例えば、前出の英国の研究報告書では、「遺伝子組み換え作物試験(the FSEs=Farm Scale Evaluation=農場規模評価)」として、種子生産用など異なる市場向け作物を栽培するための隔離距離に関する研究結果も掲載されています。ここで示されている遺伝子組み換え作物からの隔離距離(表参照)は、現行の種子生産(例:高エルシン酸のナタネ)での花粉拡散や交雑の知識など、経験内容をレビューする目的で設定されています。


表:SCIMAC 同種での隔離距離(GM作物からの距離)

種類 非GM作物 種子生産用作物 有機栽培作物
セイヨウアブラナ 50m(変種の集まりや、部分的に復元したハイブリッド種は100m) 200m 200m
テンサイ 6m 600m 600m
飼料トウモロコシ 200m スイートコーン 200m 200m
注:
1 非遺伝子組み換え作物は、いき値1%まで許容、一方、従来の種子および有機栽培作物はより、いき値が狭まる。
(例:有機栽培作物は0.1%で検出されていない)
2 種子用に栽培しているテンサイの600メートルという隔離距離については、実際の英国の場合には当てはまらない。英国のテンサイ農家は種用の作物は栽培しておらず、栽培されるテンサイは花が咲かないため、商業用に栽培されたテンサイから花粉が飛ぶことはない。
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