遺伝子組み換え作物関連レポート

ヨーロッパにおける植物ゲノムとバイオテクノロジーの未来と展望

緑の革命と進化

古代から、植物は我々の生存と繁栄に重要な役割を果たしている。中東地域での世界初の「緑の革命」-農業の発明-から、今日のハイテク農業関連産業にいたるまで、植物は、食物や経済等、他の多くの分野で中心的なものとなっている。

植物は、食物や動物用飼料となるだけでなく、衣料品、紙類、塗料、油脂、医薬品および生物分解性プラスチックをはじめとする多くのものを製造するためにも利用されている。金のなる木が存在しないことは知られているが、植物は経済的な繁栄において大きな部分を占めている。EUでは、農業・食品産業は6千億ユーロの年間取引高を示しており、EU国土の1/5を利用している。ヨーロッパ大陸では、260万種類(農業従事者を除く)の職業を有する雇用者数第3位の産業であり、主に中小企業(SME)からなっている。欧州の食品および飲料産業では、EUで生産される農作物原料の70%以上を加工しており、450億ユーロ以上が輸出されている。林業関連産業は、ヨーロッパで350万人以上の雇用があり、EUの経済に2千億ユーロ以上を貢献している
この統計は2004年5月以前のEU加盟国15ヶ国のものである。

19世紀に、アウグスティヌス派修道士のグレゴール・メンデルが、生物学的特性は個別の「要因」によりひとつの世代から次の世代へと継承されることを植物で見出して以来、我々は長い道のりを歩んできた。現在ではこの要因は「遺伝子」として知られ、遺伝の科学的研究の基礎となり、最新科学、医学およびテクノロジーの一部はこれに基づいて成長を続けている。DNAの二重らせん構造-「分子の王」であり、遺伝子の情報、すなわち遺伝的情報を親世代から子世代へと伝える際の遺伝子の構築ブロックである-が発見されてから半世紀のあいだに、生命科学に対する理解は格段の飛躍を遂げている。すでに全ヒトゲノム、ヒトの身体を作り上げる遺伝子を構成する数十億ものDNA配列のマップが、入念に作成されている。これらの構成要素の多くについてはその正確な機能がまだ不明であるが、生体の分子的メカニズムに対する知識が増大していることから、いつの日か、ヒトの健康に多大な恩恵が得られるようになるだろう。ゲノム科学およびバイオテクノロジーには、健康上の問題に対する効果的な治療法を得る上で、大きな期待が寄せられている。

ゲノムの科学的研究はヒトに限られるものではなく、他の動物および植物にも及んでいる。研究の焦点はヒトゲノムに当てられる傾向があるものの、植物ゲノムの研究にさらに力を入れることで、大きな利益が得られる可能性がある。EUはこの領域では長年、先駆的な役割を果たしている。たとえば欧州は、植物Arabidopsis属(シロイヌナズナ/カラシの科の属)の遺伝子配列の完全なマッピングを最初に行った国際研究チームの主要メンバーであった。植物の遺伝的構成に対する理解が深まることにより、農業に対するアプローチを劇的に変化させることが可能になった。遺伝学は農作物収量の増大、化学肥料への依存度の低下、病害に対して抵抗性のある作物を作る道を開き続けるものである。さらに現在では、自然の遺伝的多様性のごく一部が利用されていることも知られている。植物をより効率的に利用することで、環境を損なわずに、持続的な方法で、欧州社会が直面している難問と要求を満たす機会が得られるのである。欧州は、独特な地理的及び気候的多様性、耕作地やundomesticated品種がたくさんあり、また、長年にわたる植物品種改良経験を有している。欧州は、こうした天然の豊富な資源を利用するための新たな独創力を促進することにより、この領域で有している利点を活用すべきである。植物から得られる油脂、潤滑剤、線維およびポリマー(合成樹脂とは異なり、自然な過程で速やかに分解することができる)は、公害を避けるために役立つはずである。

しかし、欧州での研究・開発(R&D)努力はこれまでのところ断片的なものとなっており、一貫した戦略的ビジョンを欠いている。地域的、国家的、欧州全体レベルでの研究プログラムと、公的機関-私的機関のR&D協力体制は、十分な応用成功例と副次的効果を生み出すに至っていない。欧州の野望は世界で最も競争力のある、知見をベースとした経済を作り出すことである。この最先端知見のために最も重要な突破口のひとつが、「バイオに基づく経済」として言及されるものとなるはずである。この分野の重要性を考慮した場合、欧州が現在行動を起こしていないことによって得られる結末は、劇的なものとなる可能性がある。欧州の農業、林業および食品産業を-科学的および倫理的に堅実な科学および技術に立脚した競合力のある市場にのせ、世界の食糧確保をもたらす力として、バイオ技術を使った新たな製品を生み出す能力を促進することが急務である。

欧州の農業および食品加工産業の今後の競争力は、植物ゲノム科学、バイオテクノロジーおよびその高度な応用にかかっている。これらの領域は、全世界的に急速に発展しており、革新の牙城が米国に移ってしまった場合には、欧州はこうした競争力を失ってしまうリスクがある。カナダ、アジア、インドおよび南米での植物バイオテクノロジーへの投資も、これらの地域が食糧確保の問題を解決し、農業貿易で大きなシェアを占めようとしようとするにつれて、急速に加速している。これに対して、反対論者と賛成論者との間での二極分化した論争の過熱と、これらの十字砲火にさらされる大衆の懐疑心と困惑が政治的な怠慢を引き起こし、その結果、欧州の位置付けは低下してきている。

欧州が、この重要な革新の領域と今後の繁栄で主要な世界的競争力を失わないようにするためには、批判者と擁護者双方の正当な懸念に対応する必要がある。たとえば、近年行われているリスク評価により、遺伝子組み換え(GM)作物によって健康上、有害な作用はないことが判明している。重要なのは対局的なものの見方をすることであり、誤った使い方をすると健康または環境に何らかの有害な影響を及ぼす可能性はあるものの、様々な方法の一つとして利用することにより、最新のバイオテクノロジーは現在の農業全体に有用な付加価値をもたらすものとなる。欧州は、リスクを最小限にしながら、バイオテクノロジーの発展を確実に進める必要がある。

当然ながら、将来の不確定である。植物ゲノム科学およびバイオテクノロジーはどちらも魔法の杖ではなく、我々の抱えるすべての解決するものでもなければ、破壊や災害をもたらしたりするものでもない。利点と欠点を十分に認識し、その安全な道筋を描き出すためには、大衆から支援されたロードマップが必要である。これが、「植物の将来-植物テクノロジーの潜在力を探ること」のプラットフォームを作り上げようという提案の裏に隠された目的なのである。成功と後退が並存するであろうことは疑いようもないが、健康と繁栄の上で得られる潜在的利点は膨大なものであり、「じっと待って傍観する」ような研究を行うべきではない。

展望のプラットフォーム

「植物の将来」では、研究者、政策決定者、環境団体および消費者団体、企業ならびに農業従事者など、あらゆる関連利害関係者をまとめ上げることになる。これらのパートナーは、実利的で独断主義に依らない方法で、共通の優先事項に対する同意に達し、これを実行するための行動計画を描き出すために、協力体制をとる必要がある。

これは困難な作業であるが、共通のビジョンを共有し、これに対して行動した場合の利益は膨大なものとなる可能性がある;競争力があり、独立した持続的な、バイオに基づいた欧州経済は、農業および食品の領域だけでなく、植物をベースとした医薬品、化合物およびエネルギーなど、広い範囲での応用を通じて、欧州消費者の特殊な要求および選択を満たすことになる。

このプラットフォームの目的はの、以下のものへの道筋を示唆することである。(詳細については第4章を参照のこと)

  • 欧州消費者に対し、高品質で安全な多種多様の食品を確保すること
  • 食料、飼料およびその他、再現可能なバイオに基づいた製品の生産を目的として、欧州での持続的な農業基盤を生み出すこと
  • 欧州の農業・食料関連分野の競争力を高め、欧州食料自給率を強化し、消費者の選択肢を確保すること

本プラットフォームでは、以下のものによってこれらの目標が達成されるようにすることを提唱している。

  • 利害関係者間での相互理解とコミュニケーションに基づき、社会的コンセンサスを促進すること
  • このセクターの発展を目的として、首尾一貫した法律の枠組みを示唆すること
  • R&Dへの私的および公的な出資を増大させ、地域的、国家的、欧州全体レベルで、欧州での研究の透明性を高めること
  • このプラットフォームでの研究計画に対する企業の支援を強化すること
  • セクターの優先事項を識別した上で、適切で戦略的な研究計画を開発し、ゲノム科学、生理学、農業経済学、生態学、生命情報学およびその他の新たな技能などの領域を網羅する、学際的な手法を獲得すること。

pagetop