グラハム・ブルックス(Graham Brookes)、ピーター・バーフット(Peter Barfoot)
PGエコノミクス社(PG Economics);英国
英国の経済学者グラハム・ブルックスとピーター・バーフットは、遺伝子組み換え作物が過去14年間(1996~2009年)に経済・環境に及ぼした影響を累積的に定量化した、最新の研究を発表しました。著者らは、遺伝子組み換え作物が世界の経済・環境に大きなベネフィットをもたらしているとともに、世界の食糧安全保障に重要な貢献を果たしていると報告しています。報告によると、過去14年の間に、遺伝子組み換え作物の導入によって、農業生産活動によって生ずる温室効果ガス排出量や農薬散布量を削減できたと同時に、農業生産者の収入が大幅に増加したとしています。さらに、遺伝子組み換え技術によって多くの農業生産者の単位面積あたりの収量が増加し、結果として作物生産量が向上したとしています。この報告書全文はhttp://www.pgeconomics.co.uk/より入手できます。2本の要約記事が、査読(同分野の専門家による論文審査)付き学術誌に掲載予定のほか、経済に与えた影響を要約した記事はInternational Journal of Biotechnology http://www.inderscience.com/ に、環境に与えた影響を要約した記事はGM Crops http://www.landesbioscience.com/journal/gmcrops/ に掲載されています。
研究の要点:
環境に対する影響:
遺伝子組み換え作物が環境に与えた影響については、遺伝子組み換え作物が栽培されている国々の各年データを利用し、遺伝子組み換え作物と非遺伝子組み換え作物の農薬使用量を比較し、その変化に基づいて算出されています。また、総農薬使用量の変化に加え、環境影響指数(environmental index quotient ; EIQ)を算出することにより“環境フットプリント”の変化も定量化しています。このEIQ指標によって、遺伝子組み換え作物ならびに非遺伝子組み換え作物の栽培体系の中で使用される特定の農薬製品の環境特性を比較しています。著者らは1996年以降、世界の遺伝子組み換え作物への農薬使用量は8億6,600万ポンド(3億9,300万キログラム)減少、比率にして9%に近い大幅な削減が見られたと報告しています。同様に、遺伝子組み換え作物の導入によって農薬使用による総合的な環境影響(EIQ)は17%以上も低下し、環境への影響が世界的に大幅に削減された、と重要な報告をしています。
遺伝子組み換え作物への農薬使用量の変化による影響:1996~2009年
| 作物 | HT 大豆 |
HT トウモロコシ |
HT ワタ |
HT ナタネ |
BT トウモロコシ |
BT ワタ |
総変化量 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 農薬使用量の変化 (単位:百万kg) |
-40.9 | -140.3 | -8.9 | -14.0 | -36.5 | -152.6 | -393 |
| 農薬使用量の変化 (%) |
-2.2% | -9.2% | -4.0% | -16.2% | -40.6% | -21.8% | -8.7% |
| 環境影響指数の変化 (%) |
-16.0% | -10.5% | -6.9% | -23.2% | -34.8% | -24.7% | -17.1% |
農薬による環境への影響は使用方法に違いがあるため、国ごとに、また年によりばらつきがありますが、農薬の影響が世界全体で減少傾向にあるという点においては、過去14年間常に一貫しています。
著者らはさらに、遺伝子組み換え作物が環境への二酸化炭素(CO2)排出量の削減にも大きく貢献してきたと指摘しています。遺伝子組み換え作物の導入に伴うCO2排出量削減には、2つの要因があります。第1の要因として、遺伝子組み換え作物によって、農薬散布と耕起の回数が減少し、このためディーゼル燃料使用量が減少したことです。遺伝子組み換え作物の栽培による燃料使用量減少によって、2009年には14億キログラムのCO2が削減されました。第2の要因としては、遺伝子組み換え作物の導入により畑を耕起する回数が減少したことから、土壌中に固定・隔離される炭素量が増加したことです。 これにより2009年にCO2が160億キログラム以上削減されました。著者らは、遺伝子組み換え作物に起因するこれら2つの要因により、2009年には、大気中へのCO2排出量が合計で176億キログラム削減されたと報告しています。この削減量は、年間800万台近くの自動車が道路から無くなった事に相当します。
遺伝子組み換え作物による二酸化炭素排出量への影響および乗用車換算値、2009年
| 燃料使用量の減少による CO2排出量の減少 |
炭素固定による CO2排出量の減少 |
道路を走行する平均的乗用車に 換算した1年間の削減台数* |
|
|---|---|---|---|
| 単位 | 10億kg CO2 | 10億kg CO2 | 100万台 |
| 2009 | 1.4 | 16.2 | 7.8 |
*乗用車の平均的なCO2排出量は、次の式に基づいて算出した。:150 g CO2/km X 15,000km/年 = 年間2,250 kg CO2
経済効果
著者らは、1996年以降栽培されてきた各種の遺伝子組み換え作物について、それぞれが著しい経済効果をもたらしたと報告しています。遺伝子組み換え作物を栽培している全ての国々において、農業生産者は、収量の増加もしくは生産コストの減少に伴い経済的収益を増加させています。遺伝子組み換え作物を用いた事で農業生産者の所得は2009年に108億ドル(1ドル=85円として約9,180億円)増加し、1996年以降の累積増加額は640億ドル(約5兆4,400億円)を超えたと報告しています。2009年の農業生産者の所得増加分のうち、53%が発展途上国の生産者におけるもので、これは主として、害虫抵抗性ワタと除草剤耐性大豆によるものです。
これに加え、間接的、非金銭的な付加価値が農業生産者にもたらされていると著者らは指摘しています。米国の農業生産者が2009年単年度に得た追加の価値は、9億2,100万ドル(約78億3,000万円)と推定され、金銭的な所得増加分の約20%に相当します。経営改善効果など間接的な所得増加については、1996年から累積すると約70億ドル(約5,950億円)になりますが、今回の計算には含まれていません。このため、下表の経済効果額は控えめに評価された数値といえます。
遺伝子組み換え作物による世界の農業生産者の所得利益(100万ドル)
| 作物 | HT 大豆 |
HT トウモロコシ |
HT ワタ |
HT ナタネ |
BT トウモロコシ |
BT ワタ |
総所得 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 2009 | 2,068 | 392 | 38 | 363 | 3,912 | 3,912 | 10,770 |
| 1996~2009 | 25,077 | 2,235 | 908 | 2,181 | 14,531 | 19,578 | 64,739 |
生産量に対する影響:
遺伝子組み換え作物の導入は、2009年の大幅な生産量増加に貢献しました。2009年には遺伝子組み換え作物によって世界の作物生産量が約4,000万トン増加し、1996年から累積すると2億3,000万トン増加しています。
| 生産性の変化、 2009年 100万トン |
生産性の変化 1996~2009年 100万トン |
|
|---|---|---|
| 大豆 | 9.7 | 84 |
| トウモロコシ | 29.4 | 131 |
| ワタ | 1.9 | 10.5 |
| ナタネ | 0.7 | 5.5 |
| 合計 | 42 | 230 |
主要な研究結果:
遺伝子組み換え作物は、商業化から14年の間に世界の環境へ多大な貢献をしてきました。
- 1996年以降、農業生産者は農薬の使用量を3億9,300万キログラム削減、比率にして8%を超える削減を実現しました。農薬散布が減少した結果、環境影響指数(environmental index quotient ; EIQ)は17%以上減少しました。
- 除草剤耐性の遺伝子組み換え作物により、多くの地域で減耕起・不耕起による栽培体系が普及した結果、土壌浸食が減少に貢献しました。
遺伝子組み換え作物は、農業生産活動に伴う温室効果ガス排出量の削減に著しく貢献し、177億キログラムの二酸化炭素削減に貢献しました。これは、年間800万台近くの自動車が道路からなくなったことに相当します。
- 2009年も、遺伝子組み換え作物の導入によって農薬散布と耕起の回数が減少しました。遺伝子組み換え作物を栽培する際は燃料使用量が減少するため、14億キログラムの二酸化炭素の排出削減につながりました。
- 遺伝子組み換え作物の導入により、減耕起・不耕起による栽培体系の普及が促進され、土壌中に固定・隔離される植物残渣が増加しました。この炭素隔離により、2009年には、二酸化炭素に換算して163億キログラムの排出が削減されました。
報告書はこれまで同様、2009年も遺伝子組み換え作物を栽培する全ての国々において、農業生産者の純所得が増加したことを裏付けています。
- 2009年、遺伝子組み換え作物を栽培した農業生産者は、遺伝子組み換え作物を栽培しなかった生産者に比べて、純所得が約110億ドル(約9,350億円)多くなりました。
- 1996年以降、遺伝子組み換え作物を栽培する世界の農業生産者の純所得は、生産性の向上とコスト削減の両方から増加しており、その累積総額は650億ドル(約5兆5,250億円)に達しました。
- 遺伝子組み換え作物がもたらした農業生産者の所得増加のうち、発展途上国の農業生産者の所得増加分が全体の半分を占めており、これは、主として害虫抵抗性ワタと除草剤耐性大豆の導入によるものです。
- 今回の報告では、経営効率の改善など農業生産者への間接的、非金銭的な効果を含めていないため、遺伝子組み換え作物がもたらした農業生産者の所得増加に関する報告結果は、控え目なものであると考えられます。なお農業生産者への間接的、非金銭的効果は、直接的な所得増加の約20%に相当すると見積もられています。
遺伝子組み換え作物の導入により、世界のトウモロコシ、大豆、ワタ、ナタネ生産量は、2009年には合計で4,200万トン増加しました。
- 遺伝子組み換え作物の高い生産性により、2009年の生産量はそれぞれ大豆が1,000万トン、トウモロコシが2,900万トン、ワタが200万トン、ナタネが100万トン増加しました。
- 遺伝子組み換え作物の導入によって、1996年以降、作物生産量が累計2億3,000万トン増加しました。



