この調査は、1996年に遺伝子組み換え(GM)作物が商業ベースで導入されて以降のグローバル経済への影響、ならびに環境影響に関する調査によってえられた結果を示しています。すでにいくつかの調査でGM作物の経済的展望、ならびに環境展望もそれぞれ実施されています。しかし、これらは形質、国もしくは年度で限定されているケースが一般的でした。したがってこの調査は、過去の調査から得られた経済分析の結果を照合、また外挿したものとさらに新しく環境影響分析を実施した結果を組み合わせて、1996-2004年という期間の影響を累積的に数値化することを目的としています。9年間にわたる世界的規模での累積分析は、作物、形質ならびに国による影響の顕著な違いを明確化するだけでなく、技術の影響の経年的傾向もかなり一貫していることを示すはずです。
経済影響の分析は、生産者所得への効果に対象を限定していますが、これは、これが生産者にとって採用決定の主要な要因であることから、非常に多数の分析が行われてきた領域だからです。環境影響分析はGM作物に伴う殺虫剤と除草剤利用の変化と、その結果生じる作物生産に由来する環境負荷への影響に限定しています。これまでの調査はGM作物と農薬使用量の変化についての調査に限定されていましたが、今回は調査を拡大し、種々の農業生産システムで使用される特定の農薬と、それらの環境負荷影響に関するより直接的な評価も含めています。最後に、地球上の温室効果ガス(GHG)排出削減に対する遺伝子組み換え作物の貢献についても、この問題の地球環境に対する重要性を考慮して初めて調査します。
| 形 質 | 2004年の 農業所得 |
1996-2004年の 農業所得 |
GM採用国におけるこれらの作物の生産総額に対する割合でみた2004年の農業所得 (%) | これらの作物の世界生産の総価値に対する2004年の農業所得の利益の割合 (%) |
| GM HT 大豆 | 2440(4,141) | 9,300(17,351) | 5.6(9.5) | 4.0(6.7) |
| GM HT トウモロコシ | 152 | 579 | 0.6 | Less than 0.5 |
| GM HT ワタ | 145 | 750 | 1.4 | 0.53 |
| GM HT ナタネ | 135 | 713 | 8.3 | 1.34 |
| GM IR トウモロコシ | 415 | 1,932 | 1.4 | 0.8 |
| GM IR ワタ | 1,472 | 5,726 | 10.5 | 5.3 |
| その他 | 20 | 37 | N/a | N/a |
| 合計 | 4,779(6,480) | 19,037(27,088) | 5.3(7.2) | 3.1(4.2) |
農業所得において最も増加の大きいのは大豆の分野であり、主としてコスト節減に由来していましたが、2004年にGM HT大豆によって発生する41億4000万ドルの追加収入は、GM栽培国における作物生産額に9.5%加算することに相当します。これはまた、あるいは世界の大豆作物額620億ドルに6.7%相当額を加算することに相当しました。しかしこれらの経済的利益は、主要GM採用国における大豆生産量の顕著な増加という状況の範囲内にあります。1996年以降、米国、ブラジル、アルゼンチンの主要大豆生産国における大豆の生産地域と生産額はそれぞれ56%ならびに66%増加しました。
ワタの分野でも、高収量と低コストの組合せを通して実質的増加が生じました。2004年、GM作物採用国ではワタの農業所得レベルは、16億2000万ドル増加しました。さらに、1996年以降、この分野はさらに65億ドルの追加利益を得ました。2004年の所得額は、これらの国のワタ作物額にほぼ12%付加し、これはまた世界のワタ生産総額280億ドルに5.8%付加したのと等しい値です。これは、新しい2種類のワタの種子技術という条件を付加したのと実質的に同じ価値の増大です。
トウモロコシおよびナタネの分野でも農業所得への有意な増加という結果が得られました。トウモロコシにおけるGM害虫抵抗性(IR)とGM HT技術の組合せは1996年以降の農業所得を25億ドル以上増加させました。北米のナタネ分野ではさらに7億1300万ドル上乗せになりました。
(表5)は、主要GM採用国における農業所得への影響をまとめたものです。これは、アルゼンチンにおけるGMHT大豆、中国のGMIRワタ、米国における多様なGM栽培品種に起因する重要な農業所得の利点に焦点をあてています。またここでは、南アフリカ、パラグアイ、インド、メキシコのような途上国で得られている農業所得利益が拡大レベルにあることも示しています。
ほ場の収益性のように、こうした数値で示すことが可能な直接的影響と同時に、数値化するのがより一層難しい間接的影響というもう一つの重要な要素もあります(たとえば耕起回数を減らす低耕起農法もしくは不耕起農法の採用奨励、生産リスクの削減、利便性、生産者ならびに農場作業者の農薬暴露の低減、作物の品質向上)。GMを採用している生産者は、こうした目に見えにくい利益が、この技術の採用に大きく影響したことをしばしば述べていました。したがって、本論文での分析においてこれらの影響を除外することは、数値化される農業所得の利益は確実であることを示唆するものの、この方法論の限界にもなります。
| 形 質 | GM
HT 大豆 |
GM
HT トウモロコシ |
GM
HT ワタ |
GM
HT カノーラ |
GM
IR トウモロコシ |
GM
IR ワタ |
合 計 |
| 米国 | 6,371 | 564 | 746 | 96 | 1,626 | 1,301 | 10,704 |
| アルゼンチン | 9,965 | n/a | n/a | n/a | 120 | 16 | 10,101 |
| ブラジル | 829 | n/a | n/a | n/a | n/a | n/a | 829 |
| パラグアイ | 80 | n/a | n/a | n/a | n/a | n/a | 80 |
| カナダ | 55 | 16 | n/a | 617 | 119 | n/a | 807 |
| 南米 | 0.8 | 0.2 | 0.01 | n/a | 44 | 11 | 56 |
| 中国 | n/a | n/a | n/a | n/a | n/a | 4,160 | 4,160 |
| インド | n/a | n/a | n/a | n/a | n/a | 124 | 124 |
| オーストラリア | n/a | n/a | n/a | n/a | 70 | 70 | |
| メキシコ | n/a | n/a | n/a | n/a | n/a | 41 | 41 |
GM作物の環境影響のより確固たる測定値を得るために、下記に提示した分析には環境影響指数(EIQ)として知られている指標を介して、使用する特定の農薬について評価すると同時に、農薬の有効成分の使用量の双方の評価を含めています。このユニバーサルな指標は、Kovach、Petzoldt、Degni、Tette(1992)によって開発され、しかも毎年更新されており、単一のほ場価値に個別の農薬の種々の環境影響を1ヘクタールあたりで効果的に盛り込みます。これは、環境へのGM作物の影響について、バランスのとれた評価を提供します。なぜならば、個々の農産物に関連する主要な毒性データと環境暴露データを最大限に活用しており、また農場作業者、消費者、生態系への影響に応用可能であり、そして環境影響の一貫したかつ総合的な測定手段を提供するからです。しかし読者は、EIQは単なる1個の指標であり、したがって、すべての環境問題ならびに環境影響を考慮しているというわけではない点にも留意しなければなりません。
EIQ値に、ヘクタールあたりで消費される農薬の有効成分(ai)量を乗じて、ほ場のEIQ値を算出します。たとえば、グリホサートのEIQ評価は15.3です。ヘクタールあたりに使用するグリホサート量を乗じてこの評価をもちいると(例えば仮定の例として:1.1kg/ha)、グリホサートのほ場EIQ値は16.83/haに相当します。
したがって使用するEIQ指標は、従来型の作物生産システムとGM作物生産システムのほ場EIQ/haの比較に、各システムの総エコロジカル・フットプリントもしくは負荷、それぞれのほ場EIQ/ha値の一次関数、各々の生産様式(GM対非GM)で栽培される地域と一緒に使用されます。環境指標は研究者には一般的に使用されており、さらにEIQ指標はBrimner、Gallivan、Stephensonが、GMナタネと非GMナタネの環境影響の比較に関する研究のなかで引用しました(2004年)。
EIQ方法論は、従来作物とGM作物の典型的なEIQ値を計算して比較し、さらにそこからこれらの値を国家レベルの値へと集計するために使用しました。年度別に従来作物、およびGM作物を栽培する各地域での農薬使用量を、もしGM作物ではなくて各年に栽培される作物がすべて従来技術を用いて生産されたなら、たぶん消費したはずであろう農薬量と比較しました。これは、各分野もしくは各国の農業相談員や研究アドバイザーが提供する従来作物およびGM作物に対する典型的な除草剤や殺虫剤の使用法を確認し、また活用するというSankulaとBlumenthal(2004)3が用いたアプローチを基盤としています。このアプローチは、GM作物と従来作物の間の相違点を差別化して各国における除草剤または殺虫剤使用データの入手可能性に関するギャップに対応するために選ばれました。そのうえこれによって、GM作物が作物の総作付面積のうちのかなりの部分を占める場合にGM作付方式と非GM作付方式を比較することが可能です。たとえば、大豆作物の総作付面積の60%以上がGM作物であるという数カ国のケースです。この場合、この2グループの農業方法を比較するのは合理的ではありません。なぜらば、残りの非採用者は、雑草や害虫の被害が平均よりも少ない地域や伝統的に集約性の低い農業生産システムの地域であって、それゆえに農薬の使用量が平均以下という特徴のある地域の生産者という可能性があるからです。
3:同様に他の研究者も適用(例えばKleiter et al.,2005)
結果:
GM作物は、農業生産の地球環境への影響の大幅削減に貢献してきました(表6)。1996年以降、農薬の使用量は1億7200万kg(6%削減)減少し、GM作物によって全体的なエコロジカル・フットプリントは14%減りました。絶対的な条件として、最大の環境利益はGMHT大豆の採択と関係しており、世界的に大豆作付け面積のなかでGM大豆が占める割合が大きいことを反映しています。GM大豆の除草剤使用量は1996年以降4100万kg減少(4%削減)し、全体的なエコロジカル・フットプリントは19%減少しました。南アメリカをはじめとした数カ国では、記録に残る量に比例するほどの除草剤量増加とGMHT大豆の採択が時期的に重なっている点に留意する必要があります。これは、GMHT技術には、従来の耕作システムから、それぞれ固有の環境上の利益をもつ不耕起農法もしくは低耕起農法への転換ならびに持続を促進する役割があることを強く反映しています。したがって、使用する除草剤量の純増加は、この生産システムの変更ならびに農業生産システムの変化の全体的活力に起因するGHG排出の削減との関係で位置づけられるはずです(下記参照)。
表6.世界中で栽培されているGM作物に由来する除草剤と殺虫剤の使用量の変化が与える影響:1996-2004年
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| 形 質 | 農薬使用の 変化(100万kg) |
ほ場EIQの変化 (100万ほ場EIQ/ ha単位) |
農薬ai使用の 変動 (%) |
EIQフットプリントの 変動 (%) |
| GM HT 大豆 | -41.4 | -4,111 | -3.8 | -19.4 |
| GM HT トウモロコシ | -18.0 | -503 | -2.5 | -3.4 |
| GM HT ワタ | -24.7 | -1,002 | -14.5 | -21.7 |
| GM HT カノーラ | -4.8 | -252 | -9.7 | -20.7 |
| GM IR トウモロコシ | -6.3 | -377 | -3.7 | -4.4 |
| GM IR ワタ | -77.3 | -3,463 | -14.7 | -17.4 |
| 合計 | -172.5 | -9,708 | -6.3 | -13.8 |
また大きな環境利益は、GM害虫抵抗性(IR)ワタの採択からも得られています。増加益は、ヘクタールあたりのベースではあらゆる作物のなかで最大でした。1996年以降、生産者はGMIRワタ作物の採用によって殺虫剤の使用を7700万kg削減し(15%削減)、エコロジカル・フットプリントを17%減らしました。重要な環境利益は、トウモロコシとナタネの分野でも起こりました。トウモロコシの分野では、殺虫剤使用量の削減と環境的により穏やかな除草剤へ切り替えの組み合わせによって農薬の使用が2400万kg減少し、エコロジカル・フットプリントは7.8%減少しました。ナタネの分野では、より環境的に穏やかな除草剤へ切り替えることによって生産者は除草剤使用を500万kg減らし(10%削減)、さらにエコロジカル・フットプリントはほぼ21%低下しました。(主要なGM採用国に関する)殺虫剤および除草剤使用の変化による国レベルでの影響を、(表7)にまとめて示しています。
| 形 質 | GM
HT 大豆 |
GM
HT トウモロコシ |
GM
HT ワタ |
GM
HT カノーラ |
GM IR トウモロコシ |
GM IR ワタ |
| 米国 | 28 | 3 | 23 | 32 | 4.4 | 20 |
| アルゼンチン | 20 | n/a | n/a | n/a | 0 | 6.4 |
| ブラジル | 4 | n/a | n/a | n/a | n/a | n/a |
| パラグアイ | 10 | n/a | n/a | n/a | n/a | n/a |
| カナダ | 8 | 4 | n/a | 20 | NDA | n/a |
| 南米 | 4 | 0.4 | 5 | n/a | 18 | NDA |
| 中国 | n/a | n/a | n/a | n/a | n/a | 28 |
| インド | n/a | n/a | n/a | n/a | n/a | 2.1 |
| オーストラリア | n/a | n/a | 3 | n/a | n/a | 21.2 |
| メキシコ | n/a | n/a | n/a | n/a | n/a | NDA |
| 作物/形質/国 | 燃料使用量の節減に起因するCO2の削減量 (CO2100万kg ) |
1年間路上からファミリーカーを撤去した場合の燃料の節減に等しいCO2の削減 | 土壌の炭素隔離に起因するCO2の削減 (CO2100万kg ) |
1年間路上からファミリーカーを撤去した場合に等しい土壌の炭素隔離に由来するCO2の削減 |
| 米国:GM HT 大豆 | 322 | 142,889 | 3,762 | 1,672,178 |
| アルゼンチン: GM HT 大豆 |
532 | 236,444 | 4,186 | 1,860,400 |
| 他国: GM HT 大豆 |
73 | 32,444 | 569 | 252,889 |
| カナダ: GM HTカノーラ |
94 | 41,778 | 906 | 402,800 |
| Global GM IR ワタ |
61 | 27,111 | 0 | 0 |
| 合計 | 1,082 | 480,666 | 9,423 | 4,188,267 |
GM作物の利用による低耕起作業から生じたさらなる土壌の炭素隔離増加によって2004年では二酸化炭素の排出削減は94億kgに達しました。これは1年間路上の自動車をほぼ470万台減らしたことに相当します(英国の全登録車の19%と等しい)。
この調査では、1996―2004年の間の、農業所得、農薬使用と温室効果ガス排出に対するGM技術の世界規模での累積的な影響を数値化しました。ほ場レベルで相当な経済的利益があり、そして累計で270億ドルに達したことをこの分析は示しています。またGM技術は、栽培者の農薬使用量を1億7200万kg削減し、さらに農薬使用と関連するエコロジカル・フットプリントの14%縮小という結果ももたらしました。またGM作物は、温室効果ガスの排出量を100億kg以上減らすという貢献もしましたが、これは1年間道路から500万台の自動車を撤去することに相当します。
しかし特定される影響は、影響の主要3分野の各々について推定するのに用いられた方法の限界や、関連データの入手に関する限界を反映して、たぶんに控えめであると思われます。そこで今後の調査では、分析が一層役立つようにダイナミックな経済影響のより高度な検討と、比較的目にみえにくい経済影響(例えば、省力化に関して)を取り入れる方向に拡大されていくかもしれません。また環境影響のさらなる分析には、土壌侵食への影響のような環境指標の追加も有効かもしれません。
報告書の原文(英文)[PDF 242KB]
GM Crops: The Global Economic and Environmental
Impact-The First Nine Years 1996-2004