遺伝子組み換え作物のメリットに関する資料

遺伝子組み換えイネが中国の農業にもたらす利益に関する研究

(報告書公表日:2005年4月29日)

今日まで主要な食糧用の遺伝子組み換え(GM)穀物を販売している国はないが、中国がGMイネの商業化を開始しようとしている。本論文では、現在、農場レベルの試作試験が行われ、商業化前の最終段階にある4つのGM品種のうち2品種について検討する。試験場の技術者の支援なしで害虫抵抗性GMイネ品種を栽培している農家を無作為に選定して行った農場の調査によると、非GMイネ生産農家との比較では、小規模農家は収穫量が高く、農薬使用量が減少、また、健康改善にもつながるためGMイネの導入により恩恵が得られていることがわかった。

GM作物は世界中の飢餓の減少に貢献するであろうという期待にもかかわらず、GM品種は主として綿のような工業用作物や、家畜用の飼料穀物として用いられている(1-3)。GMイネ(およびその他の食用作物)の商業化の困難さのため、公的および民間のバイオテクノロジー研究の量および方向の低下がみられる(4)。従って、世界中でGMイネが商業化されているところはなく、大部分の国ではその準備もされていない。Bt綿の商業化に積極的で、食用GM作物の研究に大きな投資している中国でさえ、主要な食用作物の商業化は全く行っていない。

商業化が進展していない理由の1つは、食用GM作物が実際に生産者の生活を改善するかどうかということに関して、独自の証明がほとんどないことである。本研究の目的は、中国における8ヶ所のイネの試作試験の施設からのデータを用いた経済分析の結果について報告することである。我々は、GMイネは農場での農薬使用減少に寄与するか、GMイネの新品種により生産者にとって収量は増大するか、GMイネ品種を採用することで、生産者に関して確認しうる健康上の影響があるかという、3つの疑問について検証する。

中国のバイオテクノロジー研究計画は、複数のGMイネ品種など多くの新技術を生み出した(5)。多くのGMイネ品種は、農場試験および環境試験が行われ、合格し、4品種が農場における試作試験の段階にある。そのうち2品種(それらを開発した科学者が我々の研究チームに経済分析の許可を与えた)が、本研究の対象である(5)。1つの品種(GM Xianyou 63)は、中国が生み出したBacillus thuringeasis(Bt)遺伝子の挿入によりニカメイチュウとハマキムシに抵抗性を持つよう作られた(5,6)。もう1つの品種(GMII-Youming 86)も、ニカメイチュウに抵抗性を持つよう作出されたが、この場合抵抗性は組換えた大角豆のトリプシンインヒビター(CpTI)遺伝子をコメに導入することにより生み出された(5-8)。害虫抵抗性のGM品種は、2001年に試作試験に入った。

中国の試作試験システムにより、商業化の前に農家世帯に対する害虫抵抗性GMイネの影響をみることが容易になった。GM Xianyou 63の試作試験は、湖北省の5つの郡の7つの村の農家で行われている。GM II-Youming 86の試験は、福建省の1つの村で行われている。試作試験の村では、研究に参加する農家は無作為に選定した。無作為に選定した農家すべてが研究に参加し(すなわち、不参加者はなかった)、このため、試験の対象となった村の全生産者を害虫抵抗性GMイネの採用群と非採用群とに分けることができた。各採用者には、一定量の害虫抵抗性GMイネの種子が供給された。土地が狭い農家では、種子はその全農地を十分カバーする量であった(以後、完全採用者)。そうでない農家では、農地の一部をカバーするだけの量の種子の供給を受けた(部分採用者)。害虫抵抗性GMイネの種子の供給を受けた(農家が非GM品種に支払っていたと考えられる値段と同価格で)こと以外の補助金はなく、採用者は技術者からの援助を受けず、害虫抵抗性GMイネを栽培した。生産者は、害虫抵抗性GMイネおよび非GMイネの両方に農薬を使用するかどうかを決定するため、害虫発生の程度について、彼ら自身で定期的な農場の観測を行う(すなわち、生産者は規定用量には従わない)ため、本研究では、害虫抵抗性GMイネの採用に伴う農場レベルの農薬減少量の評価を行うことができる。

ここで示された我々の解析は、試作試験対象となる村の世帯から無作為に選定した副標本に関する調査に基づく。初年度(2002年)の研究中、8つの試験村のうち6村では、採用者が少数であったため、その全員を選定した(数名は完全採用者、残りは部分採用者)。他の2つの村の全採用者から無作為に同人数を選定した。2002年には全部で40名の採用者(部分採用者28名、完全採用者12名)を選定した。さらに、各村の非採用者の中から37名の非採用者(各採用者当たり約1名)を無作為に選定した。合計では、2002年に77世帯を調査した。2003年には、同様の方法を用いたが、より多くの害虫抵抗性GMの種子が分配されたため、より多くの採用者を調査対象に加えた。全体として、2003年には、101名(非採用者32名、部分的採用者53名および完全採用者16名)にインタビューした。69世帯は、いずれの年ともインタビューを受けた。

調査員は、生産者とのインタビューで、イネの農薬使用量および栽培した品種に関する詳細な情報など農家がイネを生産した全農地に関するあらゆる情報を収集した。農家は、支払った農薬の価格や悪天候により農地が悪影響を受けたかついても詳しく述べた。合計で、347のイネ生産農地(123の農地には害虫抵抗性GMイネ品種、224の農地には非GMイネが栽培された)から調査データを得た。

調査データにより、害虫抵抗性GMイネと非GMイネのイネ生産者の特性はほぼ同一で、世帯間の主要な違いは農薬使用レベルにあることが実証された(9)。例えば、農場や農地の区画の大きさ、農家の作付け傾向におけるイネの割合、世帯主の年齢あるいは教育水準には統計的な有意差はなかった。一方、農薬の使用には大きな差がみられた(表1)(10)。GMイネの生産農家は、同じ種類の農薬を使用するが、使用は1シーズン当たり1回未満(0.5回)であり、一方、非GMイネの生産農家は1シーズン当たり3.7回である。害虫抵抗性GMおよび非GMイネに対する農薬使用量の差は、統計的に有意である。ヘクタール当たりベースで、非GMイネ生産における農薬使用量および経費は、害虫抵抗性GMイネのそれに対して、それぞれ8倍から10倍高い。害虫抵抗性GMイネ採用者では、害虫に散布する農薬は1シーズン1ヘクタール当たりわずか2.0kgで、31元の支出であったが、非採用者では21.2kgで243元の支出となった。害虫抵抗性GMイネと非GMイネを比較した場合、その他の要素が農薬使用に影響する可能性があるため、重回帰分析により、農薬使用において、害虫抵抗性GM品種の採用の最終的な影響を判定することができる。調査対象地域における中国のイネ生産農家の農薬の使用関数を推定するため、次のモデルを用いる。

    (1)農薬使用=f
     (GMイネ品種、農薬価格、天候の影響、年による影響、生産者および農場の特性)

公式(1)は、他の文献(11,12)で用いられたモデルに類似している。経験に基づいて公式(1)を推定するため、調査データを用いて標準定義(13)に基づく変数を作出した。分析のための従属変数は、1シーズン当たり使用された農薬の量(1シーズン当たりの散布回数あるいは農薬使用量のいずれかから、実質的に同一結果が得られる)である。重要な属変数である、害虫抵抗性GMイネの使用は、生産者がGM Xianyou 63あるいはGMII-Youming86のいずれかを用いたならば、1に等しい共通のダミー変数(GMイネの両品種)を含めることにより測定される。別の方法では、2つのGM品種に特定のダミー変数(GM Xianyou 63とGMII-Youming 86 )および2つの非GM品種のダミー変数を含めることで、GMイネの使用が測定される。農薬使用に対するGM品種の影響から、生産者の観察された特性、および観察されない特性を分離するため、世帯に0から1の1組の指示変数(108世帯について、各1サンプル世帯につきマイナス1)を含めた。

 回帰分析の結果、農薬使用(表2、2〜6行)減少における害虫抵抗性GMイネ品種の重要性が示された。「両品種のGMイネ」の変数に関する有意なマイナス係数は、GMイネの使用により農薬使用のほぼ80%に当たる16.77kg/haの減少が可能になることを意味している(非GM品種を使用する農家の農薬使用量と比較して、表1、3行目)。GM Xianyou 63およびGMII- Youming 86の変数に関する有意なマイナス係数も、品種により農薬使用が有意に低下することを実証している。係数の大きさは異なるが、調査は農薬使用量に対する2つの害虫抵抗性GM品種間の実の影響には統計的な差がないことを示している(表2、3および4行)(14)。

また、小さくではあるが、害虫抵抗性GM品種と非GM品種の収量間に差があることを示している。表1の記述データでは、害虫抵抗性GMイネの平均生産量(6,364kg/ha)は、わずか3.5%ではあるが、非GM品種(6,151kg/ha)より高い。ボックスプロットによっても、害虫抵抗性GMイネの生産量の中間値が、非GMイネよりわずかに高いことが示された(図S1)。年、村およびGMと非GM間の影響を識別する分散分析検定により、影響が統計的に有意であることが実証された(15)。

多重回帰分析結果は、大体において記述結果を支持している(表2)。世帯水準の影響、農地に特異的な影響、およびその他農地に特徴的な定数をすべて加味しても、害虫抵抗性GM品種の収量は、非GM品種より6%高い。特異的な品種の効果を調査すると(他の在来品種と比較して‐元となる種類)、GM Xianyou 63の収量は他の在来品種より9%高い(10%の有意水準で)ことが示された。GMII-Youming 86の収量は在来の非GM品種との間に有意差が認められないが、これは、ひとつには比較的観測値が少ないことによると考えられる(GMII‐Youming 86の試作試験は1つの村のみで行われ、また部分採用者からなる比較的少数の世帯であったため)。このため、記述的および重回帰分析によると、増収に対する害虫抵抗性GMイネ品種の効果に関する証明は、GMイネ品種と農薬の相関に関するエビデンスほど圧倒的なものではないが、GM Xianyou 63イネ品種による収量増大は明らかである(6〜9%)(16)。

中国を含む開発途上国の世帯において、農薬関連の疾病の発生が高いため、害虫抵抗性GMイネ採用による健康への影響調査への関心が生まれた(11,12,17)。本研究のサンプルにおける影響を評価するため、調査員は農薬使用期間中およびその直後に農薬の使用がどのように健康に影響したかについて生産者に質問した(18)。特に、アンケートにより農家へ、「あなたの農場で農薬散布中、あるいは散布後に、頭痛、悪心、皮膚刺激、胃腸の不快感、その他不快な症状のいずれかがありましたか。」という質問を行った。回答者が「はい」と答えた場合は、関連質問として、「気分が悪くなり始めた後に、あなた次の行動のうちのどれか1つを行いましたか。1」医者を訪ねる。2」帰宅して、家で回復を待つ。3」その他、症状を緩和するための明確な行動をとる。」と尋ねた。回答者が2つの質問に「はい」と答えた場合、農薬誘発疾患例として記録した。

肯定的な健康への影響により害虫抵抗性GM綿の生産力効果が補足されたことを示した害虫抵抗性GM綿の採用に関する研究(3)と同じ方法により、調査データに基づいた解析を行い、同様の効果がサンプルのイネ生産農家にみられた。サンプル農家の中で、2002年あるいは2003年のいずれかで農薬使用により健康に悪影響があったと報告した完全採用者はいなかった(表3)。害虫抵抗性GMイネおよび非GMイネをどちらも栽培した農家のうち、2002年では世帯の7.7%、2003年では世帯の10.9%が、農薬の使用により健康に悪影響が及んだと報告した。しかし、サンプルのGM農地で作業後に悪影響があったと報告した農家はなかった。非GM品種のみを栽培した農家のうち、2002年に世帯の8.3%、2003年に3%に健康に悪影響があった。

本研究により、生産性と生産者の健康に対し害虫抵抗性GMイネは肯定的な影響があるという証明がもたらされた。害虫抵抗性GMイネの栽培により、生産量は在来種より6〜9%高く、農薬使用量は80%減少し、健康への悪影響が低下した。このような高い潜在的利益は、中国の植物バイオテクノロジー産業がもたらす産物が、国際競争力および国内の農業収入をともに向上させる有効な方法となりうることを示唆している。健康への影響を加えると、恩恵はさらに拡大する。中国におけるGMイネ商業化の意味するものには、生産性および生産者自身の健康への影響をはるかに超えたものがある。Paarlberg は、もし中国がイネなどの主要作物を商業化するならば、世界の他の国々におけるGM作物の商業化に関する決定に影響を及ぼす可能性がある(4)。


表1:2002〜2003(平均±SD)の中国の試作試験における、害虫抵抗性GMイネ採用者と非採用者の農薬使用と収量。
害虫抵抗性GMイネには、GM Xianyou 63およびGMII-Youming 86の2品種が含まれる。データは著者の調査による。

パラメータ 採用者 非採用者
農薬散布(回) 0.50 ± 0.81 3.70 ± 1.91
農薬費用(元/ha) 31 ± 49 243 ± 185
農薬使用量(kg/ha) 2.0 ± 2.8 21.2 ± 15.6
農薬散布労力(日/ha) 0.73 ± 1.50 9.10 ± 7.73
コメの収量(kg/ha) 6364 ± 1294 6151 ± 1517
観測数(区画) 123 224


表2:中国の試作試験での生産者の農薬散布と世帯の収量に対する害虫抵抗性GMイネ品種の影響を推測するため、世帯固定効果モデルを用いる推定パラメータ。

重回帰モデルからの係数は、農薬使用量および収量に対する害虫抵抗性GMイネ品種の正味の影響を表わし、一定の状態を保ったモデルにおけるその他の農地で変化する変数と共にイネ品種ダミーでは、基線値はその他の非GM品種である。モデル1には、1つの変数として両品種を持つ。モデル2では、2つの品種を別々に扱った。世帯固定効果の使用は、全ての観測されず、時期により変化のない生産者および農場特性のための対照を考慮した108の世帯ダミー変数(その世帯を1とし、他を0とする)を含めることにより行われた。値は平均値±SDである。記号の*、†および‡は各1、5および10%での有意差を表す。データは著者の調査による。

変数 農薬使用量(kg/ha) 対数での収量(kg/ha)
モデル1 モデル2 モデル1 モデル2
インターセプト 19.93 ± 1.17* 19.78 ± 1.32* 7.55 ± 0.50* 7.61 ± 0.51*
品種ダミー  
 GMイネの両品種 -16.77 ± 1.28*   0.06 ± 0.03‡  
特定品種のダミー変数  
 GM Xianyou 63   -17.15 ± 2.60*   0.09 ± 0.05‡
 GM II-Youming 86   -25.33 ± 5.48*   0.02 ± 0.10
 非GM Xianyou 63   1.04 ± 2.61   -0.03 ± 0.05
 非GM II-Youming 86   -1.25 ± 3.82   0.07 ± 0.07
 制御変数  
 農薬価格(元/kg)   -0.02 ± 0.03   -0.02 ± 0.03
 自然災害ダミー
 (影響があった=1)
8.56 ± 2.65* 8.65 ± 2.65* -0.51 ± 0.05* -0.51 ± 0.05*
 2003年のダミー -0.17 ± 1.20 -0.01 ± 1.24 -0.05 ± 0.02† -0.05 ± 0.02†
 労働(対数)   0.17 ± 0.07†   0.17 ± 0.07†
 肥料(対数)   0.04 ± 0.06   0.03 ± 0.06
 機械(対数)   0.00 ± 0.01   0.00 ± 0.01
 その他(対数)   0.03 ± 0.04   0.02 ± 0.04
 農薬(対数)   0.00 ± 0.00   0.00 ± 0.00
世帯ダミー変数 含まれるが、報告なし
観測数 347 347 347 347


表3:2002〜2003年、中国でのサンプル試作の村における生産者の健康への影響に対する害虫抵抗性GMイネ使用の効果。
完全採用者は害虫抵抗性GMイネのみ、部分採用者はGMと非GMイネの両方、また、非採用者は非GMイネのみを栽培した。数字は、農薬により悪影響を受けたサンプル世帯の比率である。データは著者の調査による。

健康への悪影響、
報告年
完全採用者 部分採用者 非採用者
GM区画 非GM区画
2002 0.0 0.0 7.7 8.3
2003 0.0 0.0 10.9 3.0



【参考】
報告書の原文(英文)[PDF 80KB]
Insect-Resistant GM Rice in Farmers’Fields: Assessing Productivity and Health Effects in China
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